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東洋で一番の高さを誇ったサンシャイン60が、巣鴨プリズンの跡地に、その全容を池袋の空にそびえ立たせた時、前年からホスト界に身を置いていた私は、すでに半年ほどの月日を経過させていた。
 
この時代の新宿歌舞伎町では、富裕層を顧客とした高級クラブが、角を突き合わせて妍を競い合っていた。

F会館地下にあったキングスガーデン。その向かいのビルに店舗を構えていたアレクサンドル。鬼王神社そばにあった夜汽車。なかでも圧巻だったのは、Lビル地下2階の万翔(ばんしょう)であった。
 
高度経済成長期に出来た店舗の典型とも言えるほどに、贅を凝らした内装になっており、室内装飾に掛かった総費用が、六億とも七億とも言われるほどの、一般庶民からは想像も出来ないような造りの超高級店だった。実際、今の時代にあの店舗を再現したら、どれほどの予算が必要になるのか、私などでは見当もつかないものであった。
 
この頃は、最初に勤めた店で知り合った、志摩(しま)というホストに誘われて移った二軒目、区役所通りからそう遠くない、Ⅰビル地下2階にあったジェントルという店に籍を置いていた。その店では、自分のお客もそれほどの数を持っておらず、No.1を張っている、相馬(そうま)というホストのヘルプに就くことが多かった。
 
そんな或る日、前述のLビル地下の万翔で、常にNo.1を誇っていた瑛子(えいこ)というホステスが来店した。私が最初に働いていた店でも何度か見かけており、いつも何人かの取り巻きと連れ立って飲みに来る、非常に色香を漂わせた女性であるという事と、どこか近寄りがたい迫力を身に付けた人であるという印象を持っていた。
 
最初の店でもそうであったが、彼女はそこでもNo.1を指名した。平生から相馬のヘルプに就いていた私は、苦手意識をひた隠しにして、彼女の席に着かなければならなかった。

まだホストとしての接客姿勢が、自分の中でそれほど確立されていなかった為か、それとも、彼女特有の無類に気難しそうな印象が拭えなかったのか、その席に座ることは、実に気が重いことだった。
 
その日の彼女は、いつもと違って取り巻きのホステスたちを連れてはおらず、着物などに疎い私の眼から見ても、大変高価そうに見える艶やかな和服を身に着けていた。

初めの内は指名者の相馬もいて、何人かのヘルプが座っていたので、その内の一人として多少は気を張らずに席に着いていられたが、時間が経つにしたがい、指名者が別の席に呼ばれ、他のヘルプも忙しくなって他所のテーブルに移り、気が着いた時には彼女と二人きりになってしまった。
 
なんとか指名者が戻って来る迄の間を持たせるように、話をしてみようと試みはしたが、新人に毛が生えた程度の半人前ホストであった私には、しごく気位の高そうな彼女との気の利いた会話など、全く出来ずにいた。いつしか、誰でもいいから此処に来て、この気難しい女性の相手をして下さいと、心の中で必死に願っていた。
 
その願いが通じたのかどうかは知らないが、数分後に、その店の部長ホストである屋敷(やしき)が、私の隣に座った。この数年後にはヤクザ稼業へと転身をする屋敷は、存外に話術が長けており、どれほど頑迷に見える女性でも、実に単純な下ネタで、喜色満面な笑顔をつくらせる技巧を備えていた。 
 
何度となく彼女の艶っぽい顔をほころばせた後で、屋敷の話題は、彼女が着こなしている和服へと及んだ。それは、日本女性が和服を着る以上は、下着などという、西洋のものなど身につけるべきでは無く、パンティだのショーツなどを穿くなんて、実に粋では無いといったことだ。
 
さらに、彼女がそれを身に着けているのかと、おもむろに訊ねた。
 
「そんなものを穿くわけが無い」と瑛子。
「そう言いながらも本当は穿いているんだろう」と屋敷。
「自分はそんな無粋な女ではない」と否定する瑛子。
「嘘は吐かずに、正直に下着を穿いていると言いなよ」と屋敷。
 
そんなやり取りがひとしきり続いた後。一瞬、瑛子の眼光が鋭くなり、俄かに妖艶な微笑を浮かべながら、屋敷と私を交互に見つめると、ソファーに腰掛けたまま草履を履いた両足をやや前に出し、両膝を軽く広げ、帯より下となる、衿下の部分に両方の手を添えたかと思うと、やや左右に広げる感じで、ゆっくりと上方に持ち上げていった。
 
漆黒に密生した恥毛の下部で、潤いを携えて、くっきりと二つに分かれているものを、私の双眸がしっかりと捉えていた。

その時、私自身がおそらく浮かべていたであろう、甚だしく下品な笑みや、下衆な悦びと共に、口ではうまく言えない何かが見え、何かを悟ったような気がした。
 
それこそが、これ迄どうしても女性に対し、ある種の神格化を無意識の中で行っていた私が、この先ホストとして生き残って行く為に必要な何かだったのかも知れない。



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