令嬢
何年か前に大きな話題となった、ヒルトンホテル創業者のひ孫で、個人資産300億と言われる不動産会社の社長令嬢、パリス・ヒルトンの収監騒ぎは、多くのマスコミ報道が各メディアから伝えられてきたので、何気なくニュース番組を見ていた私の目にも入った。

以前から、世界のセレブとして、バラエティ番組などで紹介されていた女性なので、ある程度の知識は持っていたが、この収監騒ぎをきっかけとして報道された、彼女の過去の行状を知り、好奇心から、より詳細な部分を様々な角度からWEBで検索してみた。

次から次へと出てくる過去の騒動や男性遍歴、ネット上で流されている、オーラル・プレイも含んだプライベートでの情交の動画などを見て、その、あまりにも奔放な生き方に唖然とさせられるのと同時に、バブル景気が産声を上げ始めた頃に転籍をした、赤坂のホストクラブで出遭った、ある一人の女性のことが思い起こされた。
 
その店、ネオレディースは、歌舞伎町にあるホストクラブなどとは全く違い、店内の造りも、当時としては最新の設備や電飾が施されている、実にハイセンスな店であり、歌手・俳優・作詞家・大相撲の横綱など、著名人の来店も多かった。

バリライト(※)にレーザー光線、スモークにシャボン玉、初めて来店したお客の中には、まるで、幻想の世界に迷い込んでしまったかのような錯覚を覚えた人も少なくない。

勤めてから、それほどの日数は経っていなかった頃かと思うが、その日、ホスト社長の霧野(きりの)と、ホスト副社長の雅(みやび)、この二人の相番(複数ホストの同時指名)の席にヘルプとして呼ばれた。

彼ら二人を両脇へ従えるように、中央にデンと腰掛けていた、その大柄な女性は、正面の丸椅子に座る私の目から、短めのスカートの奥が、はっきりと窺えるくらいに両膝を広げて座っていた。

もちろん、パリス・ヒルトンやブリトニー・スピアーズのようなノーパンではなく、きちんとショーツを穿いてはいたが、その柄をしっかりと識別できるぐらいの広がりを持って着席していたのだ。
 
席に着いて挨拶をしても、私を一瞥した後は無言のまま、あらぬ方角を向いて、私など全く眼中にないような態度を示していたが、指名者の二人が席をはずしてからややもすると、私へ視線を送らぬままに言葉を発した。
 
「最近ね、つらい事があったの」

いきなり話し始める彼女に、多少の戸惑いを覚えたが、できるだけ会話の流れを損ねないようにと、訊き返した。
 
「何があったんですか?」
「弟がね、殺されちゃったの」
「弟さんが、また、なんで?」
「ニュースでやってたけど、見てないの?」
「はあ」
「おとうさん、とっても悲しんでたのよ」
「そうなんですか」
「おとうさんねぇ、戦後、ずうっと抑留されていたのよ」
「捕虜だったんですか?」
「そうなの。一緒にいた仲間が沢山死んだんだって」
「それは、大変だったんですね」
「だから、生きて帰ってきてから、もの凄く頑張って成功したんだって」
「よかったですね」
「なのに、弟が殺されちゃったの」

彼女の、何処までも取り留めの無い会話運びに、いささか辟易するも、暫くのあいだはどうにかこうにか話を合せていた。しかし、他のヘルプホストが席に座るのを見計らうと、逃げるようにそのテーブルを離れ、指名者の二人には悪いが、二度と彼女の席に戻ろうなどとは、微塵も思わなかった。

数日後、彼女が日本でも有数である大会社の令嬢であり、先日、デパートへ付き合わされた副社長の雅が、呆れるほどの高額の買い物に、開いた口が塞がらなかったことなどを聞かされた。
 
その後、彼女の姿を見かけることは一度も無かったが、この、赤坂のホストクラブを経営していた会社が、バブルの崩壊も影響したのか、八十億もの巨額の負債を抱えて倒産した為、多くのホストたちが、やむを得ず、浅草や新宿歌舞伎町へ移る事となり、私自身も、古巣となる店のラムールで働くことになってから、随分と永い年月が経った頃に、再び、この女性の存在を知らされることになった。
 
当時のラムールは、早い時間と深夜の、二部形式の営業を行っていたが、私は早い時間の方に籍を置き、深夜はその店の系列店で働いていた。
 
早い時間の営業が終わり、深夜の職場へ向おうとして、店の入口から表へ出ようとした時に、深夜営業の時間帯を見越して来店をした、その彼女とすれ違った。

どこかで見た顔だなと思いながらも、そのままに素通りをした。数週間後には、早い時間帯のホストでも、誰一人として、彼女のことを知らないものはいなくなっていた。
 
何しろ、指名されてる深夜ホスト、美童(みどう)の売上が、その時までの最高額、小計で一千万と言う金額を完全に抜き去り、二千万にも届こうという勢いでグラフが伸びていたのだから。
 
その頃には、No.1も何度か経験していた私だったが、小計二千万という金額を売上げるなんて、露ほどにも想像が出来なかった。
 
総売りにすれば三千万から四千万、或いはそれ以上の額になる料金を、指名客が支払うことになるのだから、当時としては、如何に凄い売上であったかは、十分に理解していただけることと思う。
 
これほどの額を使える女性なら、何とかあの時、自分のお客にしとけばよかった、などと、勝手な思いを巡らせたりもした。
 
美童も、ネオレディースの副社長同様に、デパートでの買い物に付き合わされ、新宿伊勢丹において、一千万を優に超える支払いを、たった一枚のクレジットカードで済ませる姿には、唖然としたそうだ。
 
それから数ヶ月後、ある週刊誌の見出しに、下記の文面が、大きなスクープ記事として掲載された。
 
『人気ホストに一億円を注ぎ込んだ有名企業の令嬢! 超高額ボトルを前にホストを従えて!』

この記事が載った後が大変だった。彼女の両親の訴えで、歴代No.1ホストをはるかに凌ぐ売上を誇った美童は、不当請求詐欺の疑いで、警察からの厳しい事情聴取を受けることとなった。
 
長時間に及んだ取調べの後には、かろうじて無罪放免となったらしいが、それからしばらくすると、彼の姿を歌舞伎町界隈で見かけることは無くなった。
 
また、ラムールは、カード会社のブラックリストに載ってしまい、その後しばらくの間、高額会計でのカード支払いが出来なくなったため、贔屓の指名ホストに対しての強力な売上提供者である、太いお客たちの機嫌を損ねることになった。
 
なぜ、こんな記事が掲載されたのかに関して様々な形で憶測が飛んだが、どうやら、すでに行方知れずとなった美童が、歌舞伎町のNo.1ホストとして世間に名前を売りたいが為に、自分から週刊誌に売り込んだのではないかとの噂が、もっとも有力視された。
 
しかしながら、洋の東西を問わず、常規を逸する感性を持った令嬢たちの所業というものは、世間の一般人が理解できる範疇よりも、遥か遠方に存在しているようである。

※バリライト
   

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