馬鹿
毎年毎年さまざまなものがブームとなるが、数年前まで、バカを売りにした多くのタレントたちが、クイズ番組やバラエティ番組を大層にぎわしていた。
 
クイズ番組の中で、実に幼稚な算数問題や漢字問題を出されて、悪戦苦闘の末に返す、一般的な常識や良識からは決して導かれないような、突飛で愚鈍で奇抜な答えの数々が、多くの視聴者たちの笑いをさそう。
 
だが、実際のところ、彼ら彼女らのブログ(※)を読んだり、トーク番組の中での受け答えを聴いていると、本当に無知な人間とは、とても思えないような、賢そうな素振りを見出すことが度々ある。
 
ごく普通の、ありふれた魅力しか持ち合わせていない芸能人が、なんとかして人気を得んがための窮余の策として、必死になってバカを演じているのでは、と感じているのは、はたして私だけであろうか。
 
ホスト界でも、バカを売りにしてお客の気を惹くという小技は、大昔からの常套手段として使われていた。女性特有の心理作用で、一般的には母性本能と呼ばれるものを刺激する為に、この、バカを演じるという所作は、しごく単純なものではあるが、実に即効性のある効果が期待できる。
 
しかし、中には正真正銘のバカもいて、自分自身の演技に、自分自身が酔ってしまい、とんでもない事態を引き起こしてしまう愚か者も時々いる。
 
次に紹介する仙藤(せんどう)は、そんな愚かなホストを代表する一人である。
 
彼は、新人ホストとしては高年齢となる、三十歳を過ぎた頃に、ラムールに入店して来た。入店した時分は、非常に低姿勢で先輩ホストにも気を使う、どこか田舎臭く、暗い男といった印象を漂わせていた。
 
ところが、入店から数ヶ月もすると、仙藤の態度は甚だしく変容していた。おそらく私生活では、無口で小心で陰気な男であったかと思われた仙藤は、ほんの数ヶ月で、無闇矢鱈と大言壮語をする法螺吹きホストになっていた。
 
それも、実に他愛のないもので、自分はヤクザに刺されたことがあるだの、喧嘩に負けたことはないだの、挙句の果てには、三人もの人間を刺し殺していると言ったような、実に陳腐で拙劣な与太話であった。
 
些かやり過ぎかとは思うが、これに近いものなら、何人ものホストたちがよく口にする、ごく普通のハッタリ話で済みそうにも見えたが、それだけでは修まらなかったところが、仙藤の愚鈍さなのだろう。
 
全般的にお客もホストも年齢層の高い、早い時間帯では、彼の営業スタイルでお客を作ることが出来ないと感じたのか、しばらくすると、同店の深夜の時間帯に移籍した。

最初の内は彼が演じる、狂犬のように澱んだ眼付きで、異様に強張った声質で話す、筋肉質の厳つい風貌が、風俗の女性の興味を誘ったのか、グングンと売上を伸ばして行った。
 
その勢いは留まることを知らず、数ヵ月後にはNo.1の座も掌中に収めたが、エスカレートする仙藤の与太話に呆れた古参の幹部ホストに睨まれて、すったもんだの挙句に、系列店のヌーベルアムールへと移って行った。
 
勤める店が変わっても、彼の営業スタイルは変わらず、お客を増やして売上を伸ばす過程の中で、何人ものホストたちと諍いを起こしていった。
 
そんなある日のこと。本番で来店した、異様なまでに落着き払った雰囲気を持つ、二人組の女性客の席に着いた仙藤は、何を思ったのか、自分のバックには〇〇組が付いているから、怖いものなど全くないといった話を、いつものように、口角泡を飛ばしながら喚くように高言した。
 
その翌日、ヌーベルアムールの玄関前に数台のベンツで乗込んで来た〇〇組の組員十数名は、仙藤を出せ、と熱り立つ若い衆を先頭にして、その場所に陣取った。
 
ヌーベルアムールの店内では、平生のつわもの振りはどこへいったのか、足の震えを止めることも出来ない仙藤が、ホール奥の隠れた席で、怯え切った姿となって項垂れていた。
 
さすがに困り果てた店側は、二人の内勤が代表となって、店の玄関前に陣取っている幹部組員数人を近くの割烹料理店へと誘い、二時間近くもの交渉を行った末に、組員たちへの足代として詫び料を支払うことと、〇〇組の名前を無断で使用した仙藤を処分することを約束して、その場を引き取って貰うことに成功した。
 
この一件でヌーベルアムールを辞める破目となった仙藤は、その後2年程は歌舞伎町に姿を見せることは無かったが、3年を過ぎた頃、ゲームセンターなどで時々見かけるようになっていた。
 
それでも〇〇組の件は、相当に応えたと見えて、私の姿を見つけると、怯えた眼つきの卑屈な面持ちで、深々と会釈をしていた。
 
ところが、その数ヶ月後に、頭を金髪に染め上げた仙藤は、再びラムールの早い時間帯に入店してきた。どのような交渉を行ったかは知らないが、よくぞオーナーが許したものだと、何人ものホストが呆れる中を、以前の大風呂敷を更に上回った、ラッパを吹きまくる様な営業スタイルで、ホスト稼業を再開した。
 
なぜか私には腰が低かったが、数ヶ月前に遭った時の風体と比べると、笑顔の奥で、人を威嚇するような眼差しに成っており、再入店を果たしたその月に、ラムールの過去最高売上記録を塗り替えて見せると、オーナー以下、店中のホストたちに豪語していた。
 
何カ月かは早い時間帯で売上を伸ばして、宣言通りのNo.1にもなったが、その内に、深夜の時間帯までの通しで勤務するようになっていった。
 
前回と同じように深夜では、何人かのホストたちとの諍いもあり、頭突きを喰らって鼻血を流すこともあったが、少しは学習したと見えて、店を移るほどの騒ぎには成らず、深夜でも売上を伸ばしてNo.1の座に就いた。
 
再び、そんなある日のこと。こんどは、深夜の営業時間帯に、二十人近くもの警察官が、いきなりラムールに乗り込んで来て、直ぐさまリストにいる内勤に指示を出し、バンドの演奏を止めさせ、仙藤の存在を確認した。
 
本人がいることを確認すると、すかさず身柄を拘束して逮捕するのとほぼ同時に、内勤に対して厳しい事情聴取を始めた。逮捕理由は“風営法違反”で、17歳の女子高生2人に売掛(ツケ)でラムールに通わせた挙句、彼女たちの実家に対して厳しい取り立てを行ない、その親たちから訴えられたとのこと。
 
〇〇組の一件に懲りていなかったのか、この時も、バックにヤクザが付いていると言って凄んだらしく、その請求金額は、相手が女子高生であるにも拘わらず、なんと百万円をゆうに超えていたとのこと。
 
翌朝のスポーツ紙の社会面に、ラムールの名前がデカデカと載った一面刷りの大きな逮捕記事が掲載されたのには、さすがに寛容なオーナーも、心底から呆れ返るのと同時に、憤りを通り越して、烈しく落ち込んでいた。逮捕記事の中には、仙藤が都営住宅に住んでいたことや、妻子がいることまで詳細に書かれていた。
 
私にとって彼は、やはり本物のバカには付ける薬が無いんだな、ということが、はっきりと認識させられたホストであった。
 
この日、落ち込んでいるオーナーの姿が見えなくなると、一人の古参ホストが、「ヤクザを呼んだホストも、警察を呼んだホストも、今までに何人かいたけど、その両方を呼んじまったホストは、俺が知ってる限りじゃ、仙藤のバカが初めてじゃねえか!!」と、どこか自慢げに吹いた。
 
それを聞いていた周囲のホストたちは、例によって、腹を抱えるように馬鹿笑いをしていた。

※スザンヌのブログ
  同2日後のブログ
   

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