法螺
六・七年前に、現役ホストが100人出演するというので、確か、その時より20年以上前にも、そんな番組があったなと思う懐かしさも手伝って、オジサンズ11(※)という番組を視聴した。

大昔に放送された番組では、普段の仕事ぶりを熟知していた同僚たちも出演しており、現実の彼らとは、全く違う好人物を必死に演出して、その後の営業成績に繋げていたのを、今でもよく覚えている。
 
オジサンズ11でも、アナウンサーたちの厳しい質問に対して、相も変わらず、矛盾だらけのキレイごとを唱え続ける姿や、有りもしない自尊心を声も高々に連呼する態度は、あの頃と殆んど変っていないように思えた。

いかにも、何人ものお客を風呂屋へ沈めているように見えるホストに対して、その事実を突き付けるように問いかける、強気なフリーアナウンサーの発言にも、一瞬は躊躇する姿を見せたが、深夜の仕事場で培った誤魔化し戦術を駆使して、どうにかこうにか、その場の窮地を逃れることに成功していた。
 
やはりホストたるもの、嘘に嘘を塗りたくって、偽りの愛と、見せかけの優しさ、そして、在りもしない誠実さを、より多くの女性たちに匂わせ続けることが出来てこそ、生き馬の眼を抜くような厳しいホスト界で、しのぎを続けて行けるのである。
 
今の時代でもホストに憧れて、この世界を目指す男たちは後を絶たないが、そうした志望者に対しては呉れ呉れも伝えておきたい。毎年、毎年、ホスト詐欺(※)に引っ掛かる愚かな連中は後を絶たず、少ない年で数億円、多い年には数十億円もの被害届が出されている。

夜の世界も、そこに集う女性たちも、決して甘くはないということと、ホストクラブと言う名の異界は、中途半端な軽い気持ちで営業がこなせるような、そんな気楽な世界では、断じて有りえないということだ。
 
今回は、このホスト界を舐め切っていた為に、周囲のホストやお客から酷い目にあわされて、夜の歌舞伎町に棲めなくなった、まことに愚かでチンケな男の話をしようと思う。

そのホストは、ラムールでの店名を相川(あいかわ)と名乗っていた。彼は入店当初から、矢鱈と態度がでかく、発言に至っては、それに輪を掛けるほど大きかった。
 
今はどうなっているのか知らないが、この当時のホストクラブは、ほとんどが草野球チームを持っており、体格のいい新人が入ってくると、まず野球ができるかとチームの幹事が尋ねることが多い。
 
それに対して彼は、中学・高校とピッチャーをやっており、自分が投げる剛速球で、今迄にどれほど三振の山を築いたか分からないとうそぶいた。それを聞いた幹事は、すかさず次の試合の日時を伝えて、参加を勧奨した。
 
試合の当日、神宮外苑の絵画館前にあるグラウンドで、堂々とマウンドに立った彼は、周囲を威嚇するような恐持ての顔つきと、筋骨隆々とした逞しい肉体から、ダイナミックなフォームで第一球を投じた。
 
相手チームの一番バッターは、その初球を見事なまでに真芯でとらえて、遥か外野手の後方まで飛ばした。彼の投げる、今にもハエが留まりそうな低速球は、一番バッターのランニングホームランに続いて、二番、三番、四番、五番と、立て続けに大きい当たりを打ち込まれた。
 
その日以来、誰も彼のことを相川とは呼ばなくなっていた。ホラ川ホラ男。それが彼のあだ名として定着した。誰に対しても威嚇するような、横柄な態度に呆れた古参ホストが言葉で注意しても聞き入れず、その姿勢に切れた気の短いホストに頭突きをかまされた上に、さらに殴られて、鼻骨と前歯の、両方を折られたこともあった。
 
周りがどんなに注意をしても、その素行を改めるような節は全くとして見えず、日に日にエスカレートするホラ吹きぶりが、何人かのホストの鼻をついていた。
 
ある日、営業が終わって、一人のお客と彼を加えた数人のホストで深夜営業の系列店に飲みに行った時だった。例によってホラ川ホラ男ぶりを披露する彼に対し、普段からよく思っていないホストが、初めの内は我慢をして、何とか話を合わせていたが、その、あまりの言動のしつこさに呆れて、終には切れてしまった。
 
岡田と言う名のそのホストは、数日前にスキーで右肘を痛めた為に、その日はギプスを嵌めていたが、余程に腹が立ったのか、そんな状態をも厭わずに、テーブルに置いてあったガラス製の灰皿を掴むと、相川の頭部と顔面を目掛けて、何度も何度も振り下ろした。

一見すると大人しそうに思えた岡田に、頭を割られた上に瞼を切られ、鳩が豆鉄砲を喰らった如くに驚き、大層な悲鳴を上げて、血まみれのスーツとワイシャツ姿で、ホールからリスト前、そして階段の上にまで、鮮血を垂らし続けながら逃げて行った。
 
翌日、包帯だらけで出勤したホラ川は、ラムールのオーナーを通して、岡田を傷害罪で訴えると脅し、呆れるほど執拗な交渉の末に、彼から四十万円の示談金をせしめた。岡田は仕方なしに、オーナーにバンスを頼み込んで、ホラ川への支払いとした。
 
この一件が、更にホラ川の気を良くしたのか、前にましての大ボラ振りがエスカレートしていった。
 
お客でもいれば、多少は許せるホラであるが、十万円にも満たない売上しかないのに、矢鱈と態度の大きいことで、皆を不快にさせたが、下手に小突いて訴えられでもしたら馬鹿々々しいと思ったのか、周囲のホストたちも、ホラ川の大言壮語ぶりを許すようになっていた。
 
しばらくすると、こんなホラ川でも、太そう(資産家風)に見えるお客が指名するようになった。このことで、天下を取ったような態度になったホラ川の所作は言うまでもないが、それにも増して、この女性の、実に高飛車なそぶりも鼻についた。

このお客は、初めのうちは現金で気前良く飲んでいたが、ややもすると売掛をするように成っていった。それでもホラ川のグラフは、勢いを増して大きく伸びて行き、NO.5の位置を確保しているかに見えた。

ところが、月末近くになったときから、そのお客は、店に姿を現さなくなった。

初めの内は、そのお客を信じきっていたのか、強気な態度を微塵も崩さなかったホラ川であったが、売掛の締め日となる月末となっても全く連絡が来ないことで、ようやくに彼は、ホスト界でいうところの“飛ばれた”とか“引っ掛けられた”状態に追い込まれたことに気付かされるも、時すでに遅く、どうにもならなくなっていた。
 
普段から売上が有って、そこそこ店から実力を認められているホストなら、救済策としてバンスもさせて貰えようが、大して売上もなく、問題ばかり起こして、実質的な貢献度も低いホラ川に対して、そんな融通を利かせて呉れる訳がないことは自明の理だった。
 
精神的に追い詰められて思い余ったホラ川は、売掛を残したまま、店から姿を眩ました。
 
しかし、その数週間後には、店からの依頼で追込みを掛けられ、すぐさま居所をつきとめられたホラ川は、狭いアパートの部屋の中で、薄汚い布団に包まった状態のまま、ガタガタとふるえていた所を、男たち数人がかりで事務所に連れて行かれたとのこと。
 
その後の彼がどうなったかなど、全くとして、噂にも上らなかった。
 
雉も鳴かずば撃たれまい。己の分をわきまえずに行動する者が、常に手痛いしっぺ返しを喰らうのは、一般社会でも、ホスト界でも、何ら変わりが無いことさえ理解していれば、このホラ川ホラ男も、ここまで惨めな思いをせずに済んだことであろう。

※オジサンズ11
※ホスト詐欺
  

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