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今、新しい「男の物語」が求められているそうだが、記事内容を見てみると、結局は、『アナと雪の女王』で描かれた、二人のヒロインに振り回される、権力を持たぬ男の生き様をどう捉えるか、と言ったところにあるのだろう。これは、私が生きてきた、ホスト社会にも相通じる真理があるのではなかろうか。

日比谷の帝国ホテルは、高級ホテルが数多く林立する東京でも、老舗の超一流ホテルとして位置づけられ、過去でも現在でも、世界中の多くの著名人が宿泊している。
 
地方から東京へ遊びに来る女性の中にも、このホテルに宿泊して、昼はショッピングや観光を楽しみ、夜はホストクラブへ享楽を求めるものも少なくない。その中には、指名のホストに客室への出迎えを要求する強かな女性もいる。多くは事業に成功した夫を持つ人妻だが、時折は独身の女性実業家もいた。
 
ノストラダムスの大予言が、物の見事に外れて時代は21世紀となり、最初の夏が終わりに近づいていた頃、百キロはあろうかと思わせる巨体を揺さ振りながら、小柄で大人しめな女性に先導されるように、ラムールの早い時間に本番で入店してきたお客がいた。
 
そのお客が身につけている服飾品を見て、金品の匂いに敏感で眼の肥えたホストたちが、我も我もと先を争うように、その席に着いた。
 
初めて入店した翌日から、何人かのホストを相番で指名してからは、連日連夜と来店するようになった彼女を、指名ホストの一人であった私は、自分の4Lクラスの国産車で彼女をホテルまで送ることになった。
 
その夜は玄関前まで送ったところ、直ぐ様に車を降りて、ホテルの中へと消えていったが、降りる直前の会話で、翌日も行くから迎えに来て欲しいとの依頼を受けた。
 
翌日の夕方、約束の時間にホテルの玄関前に車を着けて、しばらくの間その場所で待っていたところへ、一人の先導者と数人の取り巻きを従えて、大横綱のような貫禄と風貌で現われた彼女。
 
よくよく見ると、その先導者も取り巻きも、全てがホテルの従業員であり、そのホテルのエンブレムを付けたスマートなユニホームを身に着けていた。彼女が車に乗り込もうとすると、声を合わせるような「いってらっしゃいませ」の挨拶と共に、全員が腰を90度に曲げて、そのまま車が出発するまで頭を上げようとはしなかった。
 
それまでに何人ものお客を、様々な一流ホテルへ迎えにいった経験を持つ私も、流石にこの時ばかりは驚かされた。
 
通常ならホストクラブへ遊びに行くなど、誰にも知られないようにと振る舞うものだが、それが、こうも堂々とベルボーイやドアマンを従えて、ホストが運転する車に乗車して来ようとは、一泊10万円を越えるスイートに、いくら長期の連泊をしているとは言え、一体全体、彼女は何者なのかとの好奇心も覚えさせられた。
 
丸々と太った大柄の体躯の上にある、どこまでも円形に近い造りをした大きめの顔には、表情のきつさを隠す為なのか、眼の上に引かれた眉毛のメイクラインが、観音菩薩を想わせるほどにゆったりとした半円で描かれていた。
 
お世辞にも、決して美しいとは言えない女性であったが、毎晩の来店で、席に座った者全員に一万円のチップを置いていく気前の良さと、彼女が執拗な迄に繰り返す話に出てくる、亡父からの、数十億という巨額の遺産話に魅きつけられたのだろう。関西のホストクラブから転籍してきたが、東京では全くと言ってもよいほどにお客が出来ず、日々の生活に追われていた指名ホストの一人である智樹(ともき)が、背に腹は代えられぬと、その彼女の巨体に挑み、全身に悦びを与えることに成功したと見えて、気がつくと指名者は彼一人だけになっていた。
 
その頃から、ひと月も経たないうちに彼は、ラムールから姿を消した。それからの数ヶ月間は、智樹の姿も、ホテルで長逗留している筈の彼女の姿も、歌舞伎町で見かけることはなかった。
 
その歌舞伎町に木枯らしが吹き始めた頃、一千万円は優に超えるであろう、金属光沢も鮮やかなメルセデス・ベンツから、相変わらず力士のような巨躯を揺さぶって降りてきた彼女に、寄り添うような容で、ベンツのエンブレムが入ったキーホルダーをポケットにしまう智樹が姿を現わした。
 
久々にラムールへ智樹を伴って来店した彼女は、彼と一緒に上京してきたホストの真吾を指名した。それからも何度かの来店を繰り返し、真吾の誕生日には、帯付きの百万円をチップとして割り箸に挟み、彼のスーツの胸ポケットに差し込んでいた。
 
彼女が化粧室へ行くために席を外した時、智樹は、一億円が振り込まれた通帳を、さも自慢げに席へ座っているホスト全員に見せびらかしたこともあった。これには、毎年数千万円の利息が付くという、彼女の遺産話を聞いていたホストたちも、一様に目を丸くさせられていた。
 
その後は再び歌舞伎町に姿を見せなくなったが、夏も近づいていたある日、警察手帳を携えた男たちが、彼女のことで聞きたいことがあるとラムールの事務所を訪ねてきた。
 
刑事の話を聞かされて彼女の正体を知ったオーナーは、目の玉が飛び出るほどに驚いたそうだ。何でも、彼女は服役までした前科を持つ名うての結婚詐欺師で、今回も、還暦過ぎの男性が、結婚話を餌にされて五千万円を騙し取られたと訴えているとのこと。
 
叩けば相当な埃が出るだろうと余罪の追及をしており、指名していたホストのことなども聴きたいとのことで、オーナーは知っている限りのことを包み隠さずに伝えたそうだ。この事件では週刊誌からの取材もあり、数日後に発売されたその雑誌の記事に、智樹の顔写真が掲載されていたのには、不快感を示すホストが何人かいた。
 
その写真はどう見ても、店がホストの宣伝用に撮ったものだと判るもので、明らかに、店側が週刊誌に提供したことが、見て取るように推察できるものであった。
 
彼女の結婚詐欺の手口を簡単に紹介しておこう。

その巨体に似合わず、ソシアルダンスを得意とする彼女は、智樹と連れ立ってダンスホールに通い、小金を持っていそうな高齢の独身男性に目を付けると、例によって親からの遺産話をした上で結婚話を持ち出し、二人が一緒になるためには支度金のようなものが必要だと伝えて、初めの内は直ぐに準備できる程度の金額を要求し、だんだんとその金額を吊り上げていって、しまいには相手の身包みの殆んどを剥いでしまうそうだ。
 
昔から、人は見かけに依らぬもの、とはよく言うが、彼女の容姿からは到底に想像できない稼業である結婚詐欺という犯罪行為は、TVドラマ等で描かれるように、容姿端麗で魅力に溢れた男や女が行うものと、我々はつい思いがちになるも、実際のところは彼女のように、美形とは正反対の男女の方が多いのであろう。


※今回のエッセイは、前回のコメントのリンク先に、如何にも怪しい匂いを感じ取ったので、記事の予定を変更して、閲覧している方々への注意喚起の意味も含めて掲載させて頂きました。



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