大原麗子
高度経済成長が終焉を迎えて数年の時を経た頃、歌舞伎町のⅠビル地下にあった老舗のホストクラブ、ジェントルには、実に灰汁が強く喧嘩っ早いホストが何人も集まっていた。

そんなホストたちの中でも如月(きさらぎ)は、図抜けて手が早いことで名を馳せており、リスト前で鼻血を流しているホストを睨みつけ、怒りを露わにしている彼の姿を見たことも、一度や二度ではなかった。

スレンダーな身体つきに、派手目のスーツを着こなし、どこかしら童顔ではにかんだ表情が、お客のハートを揺らし、無口ゆえにそのお客たちの母性を擽るのか、毎月の指名本数も多く、売上グラフは常に上位に付けていた。

酒乱なのだから大目に見てやろうと言う周囲の空気もあり、気が付くと眼前の相手を殴りつけるという、彼の悪癖は治まらなかった。

手が早いからといって喧嘩が強いのかというと、そうではなく、怒った相手ホストに殴り返されて、絨毯の上に引っ繰り返っていることも間々あった。また、後先を考えずに手が早いのは、喧嘩だけではなく、お客に対しても殆んど変わらぬ行動をとった。

初めて来店した若いクラブホステスを、その日のうちにホテルへ連れて行き、出来うる限りの性技を尽くして、とことん彼女を愛欲の世界へ誘うと、ホテルを出るや否や、顔見知りのトルコ風呂に沈めてしまうといった、呆れるような離れ業をこなしていたのだ。

現在、ソープランドという名称に変えられてしまったが、1984年にトルコ人留学生の抗議運動が起こる以前は、一般的にトルコと呼ばれていた。美人女優として一世を風靡した大原麗子(※)も、若き日には、『(秘)トルコ風呂』や、『トルコ風呂王将戦』といった映画で、主役を張り、No.1トルコ嬢を演じている。

何年か後に、如月に嵌められて風呂屋になったというお客の一人から話を聞いたことがある。彼女は、その時分に勤めていた高級クラブで、普段から世話になっている先輩ホステスに誘われるまま、生まれて初めてホストクラブへ行った。

その時にヘルプで付いた如月の魅力にいつの間にか惹きつけられて、彼と出会ったその日にホテルで結ばれたのだが、ホテルを出るなり、トルコ風呂の面接を受けさせられ、気がついた時には、泡まみれの仕事をさせられていたとのこと。

恨みつらみは既に消えて、いい加減な気持ちで、ヘルプのクラブホステスを続けたところで大した収入にも成らず、今では、月に何百万も稼げるNo.1になれたのだから、これで良かったのよと、前述の大原麗子を思わせる、あどけなさの混じった愛くるしい笑顔を私に向けたときには、何ともいえない胸の痛みを覚えさせられた。
 
如月が風呂屋へ沈めたお客が何人になるのか、何十人になるのか、或いはそれ以上になるのかは、私には皆目見当がつかないが、そこまで非情に徹した彼の仕事ぶりには、些かの不快感を覚えずにはいられない。

もっとも、最近のニュースなどで報道される、若いお客に高額の売掛金を背負わせて、無理やりに風呂屋へ沈めようとするホストと彼を比べれば、実にスマートな仕事のやり方とも言えるだろう。 

私が最後に如月と遭ったのは、横浜から歌舞伎町に舞い戻って間も無い頃に、指名客との付き合いで行った、早朝まで営業しているサパークラブであった。

その頃すでにジェントルは潰れていて(原因はオーナーが覚醒剤で逮捕された為との噂があった)、今はEビルにあるスターサファイアに籍を置いているとのこと。酒が入っていた為か、やや目が据わっているように見えたが、どこか人懐っこそうな笑顔は相変わらずであった。

さらに数年の時が流れ、私が歌舞伎町に戻ってから三軒目の店となる、ヌーベルアムールに勤めていた時であった。如月が死亡したとのニュースが流れた。

報道では、同居していたホストの播磨(はりま)に殴打されたことが原因とのこと。噂によれば、例によって酒乱の如月がいきなり播磨を殴り、それでかっとなった播磨が如月を殴り返したところ、そのまま後ろへ倒れた為に、運悪く如月の背後にあった階段の縁へ、激しく後頭部を打ちつけたそうである。

その場所では間もなく気が付いて、播磨と一緒に部屋へ戻り、直ぐに床に就いたが、夕方、いつもなら起きてくる時間になっても目を覚まさず、既に身体は冷たくなっていたそうだ。

播磨は傷害致死罪で懲役3年の刑を受けたが、わずか1年余りで仮出所の身分となり、スターサファイアに戻って仕事を再開すると、歌舞伎町界隈のホストクラブでは、人殺しホストとして、誰からも怖れられる存在になっていた。

傍から見ると、弱いくせに酒乱で喧嘩っ早かった為の、如月の自業自得に見える話ではあるが、私にはそれだけが原因とは何故か思えなかった。

もしかしたら、如月が風呂屋に沈めた何人ものお客たちの恨みが、魑魅となって播磨に乗り移り、その私怨を晴らさんが為に、彼に非業の最期を迎えさせるべく、自分たちが風呂屋へ沈められたように、彼を死の淵へと沈めたのではないだろうか。

元ホストとしてこんな話を吐露するのは、はなはだ気が引けるところでもあったが、記憶が確かな内に筆を取らないと、永久に闇へと封じられてしまう気がしたので、思い切って書き記してみたけれど、さて、いかがなものか。

※大原麗子
 

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