kowaihanashi
ホストクラブへ遊びに来る女性を、一つの枠で捉えることなど、なかなか出来ないことではあるが、お気に入りの指名ホストに、入れ込み過ぎた女性には一つの共通点がある。
 
彼女たちは、その性格によって多少の違いはあるが、心のうちから沸き起こる烈しき嫉妬心から突き動かされるのだろうか、一般の人たちには理解できないような、奇妙な行動に走ることが多々ある。
 
ある女性演歌歌手は、指名ホストの頬面を目掛けて、帯付きの札束で激しくビンタをするなり、「どうせ、お前なんか、これだけが目当てなんだろう!」と罵声を発し、韓国クラブのオーナーママは、別の指名席から戻ってきたお気に入りホストに、いきなりグラスに入っていたブランデーを、顔の正面から浴びせかけ、「おい、どこへ行ってた!」と威嚇をし、誰もが知っている大企業の重役令嬢は、指名ホストへの連絡が丸一日とれなかった夜に、彼が勤める店への電話を数十回も架け続けて、その指名ホストがまったく仕事を出来ないようにさせた。
 
しかしながら、抑え切れない嫉妬心から、このように常軌を逸した行動に走る女性たちではあるが、少なくとも、その指名ホストと二人の間だけでの揉め事であり、俗に言う、犬も喰わないような乳繰り合いとも思える。

ところが、その程度では済まないような、激しい情念が抑えきれずに、犯罪まがいの行動に走る女性も、時として出現する。
 
私が深夜ホストとして初めて勤めた店となるラムールには、若手ではあったが、なかなかの好男子ぶりを売りにしていた、結城と言うホストがいた。年は私とそう変わらなかったが、すでに何人ものお客を持っており、売上でもベスト10の常連であった。
 
ある日その店に、一見すると人妻の風貌を匂わせた三十路の女性が、何人かで連れ立って来店した。揃いも揃って全員、あくの強そうな女性たちであったが、それもその筈で、彼女たちは熟女を専門とした店の、ソープ嬢(当時はトルコ嬢)だった。
 
その女性たちの中に由紀子がいた。彼女は小柄な体系だが、ふくよかな顔と身体つき、そして、妖しく光る眼差しが売りで、そのソープ店では常に指名数で上位に付けていたそうだ。
 
彼女は一目で結城を気に入り、連日連夜とラムールに通い詰めるようになった。由紀子が指名するようになってから、結城は売り上げをぐんぐん伸ばし、No.1をも脅かす存在となっていった。
 
初めのうち彼女は、結城の売上順位が上がることを素直に喜び、お客が増えていくことに対しても、嬉しそうな表情をおもてに現わしていた。
 
ところが、しばらくする内に、由紀子の中で何か彼女の理屈では割り切れないものが、心の奥に潜む、深層意識に芽生えてきたのだろうか、結城に対する態度が異様なまでに変貌してきた。彼女は、自分の名前にはチャンを付けて由紀チャンと呼び、結城には敬語も付けずに、ぶっきら棒な態度で呼び捨てるようになった。
 
そして結城が席を離れると、ヘルプで座っているホストたちに媚を売り始め、まるでそのヘルプホストに気があるような素振りで、誘惑を思わせた雰囲気を匂わせていた。
 
もちろん由紀子は、結城にしか興味が無く、彼女の稼ぎのほとんどを彼に入れ込んでおり、そうすることで少しでも余計に、彼の心を自分の方へ向けさせようとしていたのだ。何度となく彼女は、次回から別のホストを指名すると言い出し、彼に対して挑戦的な態度をとっては、激しい口論をぶつけ合うようにもなった。
 
そんなある日のこと、何を思ったか、彼を指名しているお客の一人がトイレに立つと同時に、彼女も席を離れてトイレに向かった。そこで由紀子は、彼のお客に向かって、結城は自分がずっと応援しているホストであり、とても大切な人なのだから、指名するのをやめるようにと威嚇したのだ。
 
その行為は一度だけでは収まらず、結城に新しいお客が出来ると、すぐさまに同様の行動をとるようになった。これを彼が咎めようものなら、いきなりに半狂乱となって、決して自分は悪くないと、執拗なまでに食い下がるのだった。
 
それでも、由紀子が店に来ることで売り上げも伸び続け、店以外でも様々な形で、結城の世話をするようになっていった。しかしながら、そんな一方的な関係が永く続くわけなど無く、由紀子に嫌気が差してきた結城は、彼女につれない態度をとるようになった。
 
しばらくすると、珍しく数日の間、由紀子からの連絡が途絶えた。
 
彼は大して気にもせず、いつものように店へ出勤して、閉店後は自宅のマンションに戻ったが、出てきた時とまるで違う、自分の部屋の異様な光景に驚かされた。
 
様々なものが散乱しており、何者かに荒らされていることは、誰が見ても一目瞭然の状態であった。初めのうちは、泥棒にでも入られたのかと思ったが、よくよく見るとそうではなく、彼の商売道具であるスーツとネクタイの大半が、鋭利なハサミを使ったと見え、呆れるほど細かく切り刻まれて、そこら中に飛び散っていたのだ。
 
しばらく放心状態となって座り込んでいたが、突然、その部屋の電話機が鳴り響いた。受話器の向こうから聞こえてくる、陰惨な雰囲気を漂わせた声の主は、紛れもなく由紀子その人であった。
 
彼が以前、由紀子を部屋に入れた時から既に、彼女は勝手に合鍵を作っていたのだ。そして切り刻まれていたスーツとネクタイは、すべて彼女が結城に贈ったものであった。

だからといって、無断で結城の部屋に入って、彼の衣服を切り刻むなどいう行為は、誰が見ても言語道断であり、法的措置が取られれば、前科が付いたって決しておかしくない行動である。
 
だが、そんな理屈が彼女に通じるわけも無く、次に刻まれるのは彼自身であると脅かされた結城は、いい様のない恐怖に襲われていた。
 
時を経ずして、結城はその部屋を引き払い、別のマンションへと移って行った。ラムールには連絡も入れずに、無断で店も辞めていた。
 
数ヵ月の後、すでにジェントルに移籍していた私の部屋へ、彼からの電話が架かってきた。用件は、今住んでいる部屋に、遊びに来ないかというものだった。
 
数日後に彼の新居へ行くと、ホスト時代とは違った穏やかな表情をした結城が、玄関まで出迎えにきた。彼の部屋には、愛らしい顔立ちをした若い女性もおり、私に対して丁寧な挨拶をしてきた。
 
ラムールにいた頃の話でしばらくのあいだ盛り上がったが、その女性が帰ると、彼はおもむろに由紀子の話を始めた。その話の内容は、ここに記したものが殆んどであったが、最後に結城は溜息交じりで私に言った。
 
彼女のお陰で、ある程度の収入は得られたが、それ以上に神経がボロボロになったと、そして、ホストを辞めた今は、実に心が穏やかでいられると。さらに続けて、やっぱり自分にはホストの仕事は向いていなかったことが、本当によく分ったと言い、薄っすらと笑みを浮かべていた。
 
そんな話を聞かされた当時の私は、結城の言葉の十分の一も理解できていなかったのだろう。ここで、この話を終わらせた彼のことを、少しく情けない奴だと、やや侮蔑の思いを感じる心で捉えていた。後年には、そうした女性たちの、不可思議なまでに撞着する、実に恐るべきジェラシー・ストームで、この私自身も翻弄されることを知らずに。



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