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今の時代では、それほど意識されなくなったが、80年代の頃は、当時の結婚適齢期、二十五歳を翌年に控えた女性たちの多くは、それを自虐的に、クリスマスイブと呼んでいた。
 
また、この適齢期を意識していたのは、一般の女性たちだけではなく、ソープに身を沈めた女たちの中にも少なからずいた。
 
ヌーベルアムールの桐野は、ラテン系を想わせた彫りが深く端正な顔立ちと、敏捷な立ち居振る舞いを売りにして、数多くの女性客から指名を取るホストで、常にナンバー3以内に名前を列ねていた。
 
彼を指名するお客の一人に、浅草のNo.1ソープ嬢で百合香という源氏名の、非常に口数が少なく、どこかしら神秘的な風情を周囲に漂わせている女性がいた。
 
いつも一人で来店しては、もの静かに案内された席へと座り、指名数の多い桐野が自分の席に戻って来るのを、唯々、じっと忍んでいる姿にも、どこかしら、矜持を胸にひそめているようであった。
 
また、桐野が席に着いても、何か話しをするわけでもなく、時々彼の横顔を眺めては、わざとらしく不機嫌な表情をつくっていた。
 
そんなある日のこと。桐野が所属しているホストのグループが、親交を深めるとの口実で、グアム島へ旅行することになった。海外旅行が初めての彼は、もちろんパスポートなど持っておらず、新規申請の手続きを取ることになる。

まず区役所へ行き、住民票と一緒に戸籍謄本を受け取った。戸籍謄本など滅多に見ることが無かった桐野は、興味深げにその内容を確認した。謄本をしばらく眺めていた彼は、何が無しに不可思議な違和感を覚えていた。

そこには、父親や母親の名前が、かしこまったように記入されていたが、なぜか、自分の名前の上に、夫という文字が記されていた。さらに、彼の名前と肩を並べるように、見たことも無い女性の名前が、妻と表記された欄の下に、大きく記載されていたのだ。
 
百合香の本名が、妻の欄に入っていた女性の名前だと判るまで、それ程の時間を要しなかった。彼女と同じ店に勤める女性から、百合香が最近、無闇矢鱈と仲間内に、結婚したことを自慢するようになっていた為だ。
 
初めの内は、けっして相手の名前を言おうとしない百合香であったが、仲間の一人が、しつこく追求したところ、それが桐野であることを白状したというのだ。その女性の指名ホストを経由して、事実を知った桐野が激しい憤りから百合香を責め立てたところ、以前、彼女に見せた免許証から彼の本籍を憶え、入籍したいという気持が、どうしても抑えられなくなってしまったとのこと。
 
一般社会に当て嵌めると、こんなことは絶対に許されない行為であったが、あえて桐野は、法的な措置を取ろうとはしなかった。
 
しばらくの間、指名で通って貰った義理もあるが、それ以上に、どうしても風俗から抜け切ることが出来ない百合香の、宿業とも言える生き様に、どこか哀れさを感じ取っていたのかも知れない。
 
それでも、このままにすることはできず、離婚届に判を押させて、自分で区役所に提出をすることで、戸籍上の桐野は、まったく身に覚えの無い事で、バツイチとなってしまった。



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