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実際、芸能人やスポーツ選手、そして音楽関係の人間が、薬物を使用したとして警察に逮捕されるというニュースが後を絶たないが、ホストの世界でも様々な薬物の誘惑がある。

どうして、精神にも肉体にも非常な悪影響を及ぼすことを、殆んどの人たちが知っているであろう薬物を、懲りもせずに多くの人間が、これを使用して何度も何度も警察の世話になったりするのだろうか。
 
中でも覚醒剤というものが、どれほど恐ろしいものであるかは、多くの犯罪事件がそれを証明している。何故に、この覚醒剤を断ち切ることが出来ないのか、そして、この覚醒剤というものにはどんな魅力があるのか、その一つの例を今回は紹介してみよう。
 
バブル景気が頂点を極めた時代に、華々しく繁栄していた赤坂のネオレディースには、実に個性的で行動的、そして、勝手で気ままなホストが多く集まっていた。
 
そうしたホストたちの中において江口は、一見おとなしく控えめであり、無断で店を休むことなども全くないような、他の誰よりも真摯に思えるホストであった。その彼が、あるとき一週間近くもの無断欠勤をした。
 
いくぶん頬がこけており、顔色も悪く、どこか病的な雰囲気だったので、体調を崩して寝込んでしまい、その為に、店に休みの連絡が出来なかったのだろうと、周囲のものは思っていた。
 
普段から江口と親しくしていた私は、二部屋用意されている控え室の内の、奥側の方に位置した、照明を幾分か抑えて薄暗くしてある控え室で待機していた彼に、大丈夫なのかと声を掛けたが、私と目を合わせた彼は、妙な笑みを浮かべて、いつもとは違う饒舌な雰囲気で、他に誰もいないのを確認しながら、それでも周りには聞かれないようにと押さえ気味の声で、無断で休んでしまった理由を話し始めた。

欠勤の初日に彼は、いつもと同じようにお客からの電話で起こされた。同伴して貰えるのかとの期待から、お客の機嫌をそこねないように、これも平生と同じように話を合わせていた。
 
ところが、お客の方が、いつもとは違っていた。江口のお客たちは彼に似て、おとなしめな女性が多く、その電話の相手も、どちらかと言えば上品な雰囲気を醸し出している、一見すると貞淑そうな面持ちで、麗夫人という表現がしっくりと似合いそうな感じの、柔和な人妻であった。
 
いつもなら、そのお客の話といえば、友人がどうしたとか、家族がどうしたとか、実に平凡で他愛のないものであった。だが、その日の彼女は、妙に息遣いが荒く、舌足らずで甘えるような声色で、羞恥を堪えるように、受話器の向こう側から、しな垂れかかって来る雰囲気を滲ませていた。

そして、どうしても今すぐ彼に逢いたいと懇願してきた。これで同伴が確保できると思った江口は、それを匂わすような表現で、彼女の要求を了承した。
 
一時間ほどで、シャワーを浴び、店に出る仕度を終えて、スーツに着替えた江口は、彼のマンション近くまで、高級乗用車で乗り付けてきた彼女が、鋭く睨む様な眼差しで、どうしても行きたいと言う場所へと、その車で案内された。
 
車を降りた江口は唖然とした。いつもなら一流のシティホテルで彼女と待ち合わせ、そのホテルの部屋で情交に及ぶことが多かったが、そこは、東麻布のロシア大使館裏にあった、知る人ぞ知る、SM専用の高級ラブホテルであった。
 
今日はどうしてもここへ来たかったの、と言うなり彼女は、前もって決めていたかの如くに部屋を選び、江口に鍵を渡しながら、しおらしげに彼の背後へ回り、いかにも江口の後をついて来たかのような態度を装った。
 
江口は、彼女から受け取った鍵でドアを開け、部屋の中を見回した。そこは薄暗く、とても広い空間で、床はタイル張りの様になっていた。さらに見回すと、壁という壁には、SMに必須の様々な小道具がぶら下げられ、ベッドの反対側には、大きな木馬も配置されていた。
 
その部屋のソファへ先に腰掛けた彼女は、いままで一度も江口に見せたことがない、妖艶で淫靡な光を放った眼差しで、彼を食い入るように見つめると、舌を蕩かした感じで説明を始めた。
 
彼女が、数日前から長期の出張に出ている夫の部屋を掃除していた時に、一本の薬壜を見つけたとのこと。彼女はそれを夫が常用している胃腸薬かと思い、朝から胃の調子に違和感を感じていたので、その壜の蓋をあけて二錠ほど服用した。
 
数分も経たぬうちに、異常な高揚感と、顔の火照り、そして、なんとも言えない様な本能的な欲求が全身を包み始め、思わず彼女自身の手で、その熱くなった部分を慰めてしまったが、そんなことでは治まりきらず、どうしても江口に逢いたくなってしまったと、いつもの清楚で上品な印象の彼女からは、想像も出来ないような表現で、奔放に語った。
 
語り終わると、傍らのハンドバッグの中から、薬壜を取り出した彼女は、江口にも飲んで欲しいと、彼のほうに差し出した。江口がその薬壜を確認すると、確かに彼女の話には嘘がないようで、見た目は、大手製薬会社の胃腸薬に酷似していた。
 
単なる催淫剤かと思い、彼は彼女の言うがままに一錠だけ服用し、そして、冷蔵庫を開けてビールを取り出し、グラスについで飲み始めた。
 
その錠剤を江口が呑み込むのを確認した人妻は、衣服を脱ぐとベッドの方へ行き、再び彼に声を掛けた。一糸まとわぬ姿となっていた彼女は、彼の方へ向かい、大きく下肢を広げて両膝を立て、彼に視て欲しいと、声をあらげて、嗚咽を漏らしながら烈しく自身を慰めていた。
 
彼女の声音は徐々にと大きなものとなり、絶頂が見え始めた頃には、江口の名を叫んでいる。
 
ビールを口にしながら、その人妻の痴態を、妙に冷静な心理状態で眺めていた江口であったが、彼自身の肉体と精神にも変容が顕われるのを感じ始めていた。

この部屋に入って、彼女から話を聞かされた時には、ある種の侮蔑的な感情を隠し、表面では受け容れる素振りを見せながらも、心のなかでは、頗る呆れ返っていた彼であったが、その人妻が恥ずかしげもなく、彼女自身を愛しげに撫で摩る姿態を眺めているうちに、その彼女に対して、激しく何かをしたいという情動も起こり始めていた。
 
それが何であるのか、全く彼自身には判らなかったが、徐にベッドの上で喘いでいる彼女の傍へ行き、彼の目を厭らしく見つめながら、彼女自身へ両手での愛撫を続ける人妻の乳房を彼の両手で支えて、その乳首を口に含んだ。
 
瞬間、江口が今までに感じたことが無い、何ともいえない痺れる様な感覚が口唇を覆った。気が付いた時には江口も、彼女と同じように衣服を脱ぎ捨て、生まれたままの姿となり、その人妻の全身を、最上の高級料理を頬張るが如くに、余すところ無く舐り廻していた。
 
その行為は数時間にも及び、時計を見ると、とうに店の出勤時間を過ぎていた。同伴なのだから、多少の遅刻は大目に見て貰える事は判っている江口であったが、そのまま店に向かう気持ちになど、到底になれそうもない心理状態を、彼は素直に受け容れていた。しかし、これ程に驚異的な官能行為を何時間繰り返しても、その人妻も江口も、真の満足には至らなかった。
 
もう何時間経ったのか、全く判断できない茫洋たる精神状態で、時折架かってくる受付からの電話に、何度も延長の返答を繰り返していた。
 
その時になって江口は、ある事に漸く気が付いた。江口のリビドー、つまり性的欲求は途轍もなく高まっているのだが、彼のポテンツ、そう、男性自身は、この部屋に入った時から今の今まで、完全に萎えたままなのだ。それでも、気持ちがよくない訳では決して無い。
 
それどころか、これ程の歓びを異性と共有したことなど、今までに一度も無く、これが最初で最後と言っても過言では無いほどの恍惚感に浸りきっているのだ。彼女のしっとりとした肌に触れているだけでも気持ちがいいのだ。どこを触れても、彼の全身に著しいまでの官能が奔るのだ。
 
人妻の方だって、これまでの彼との情交では、決して表さなかった、淫靡な肢体から醸し出された、愛欲に塗れた悦びの喘ぎ声からも、彼女の陶酔の程が伺える。

どこまでも妖艶で、淫靡な肢体を彼に向けて晒し続けている人妻を目の前にしても、彼の下腹部は、少しとして屹立する気配を見せなかった。諦めずに彼は、呆れるほどの時間に渡って、激しく体力を消耗しながらも、挑み続けることを止めなかったが、時間はともかく、体力には限界があった。江口の腕も腰も、そして全てが烈しい疲労感に襲われていた。
 
どんなに絶頂感を求め続けようとも、全くとして機能しない自分自身に、これ以上は無理と悟った江口は、彼の傍で満足げに横たわっている人妻の姿態を眺めながら、何ともいえない無常な感覚に包まれていた。
 
シャワーを浴びて身奇麗にした江口は、そのホテルを出て、彼のマンションの近くまで、彼女の車で送って貰い、そこでその人妻と別れて一人自分の部屋に辿り着いた。

何気なくテレビを点けた江口は、そのニュース番組のアナウンサーが口にした日付を聞いて、一瞬、聞き間違えたのかと思った。気を取り直して画面を見ると、その日付に間違いが無いことが分り、愕然とした。
 
あの人妻と会った日から、既に3日が過ぎているのだ。その間、二人とも殆んど何も口にせず、また一睡もしないで、どこまでも淫猥で色欲的な性的衝動に身を委ねていたのだ。鏡を覗き、頬がこけて蒼褪めている自分の顔を見て、なお一層の驚きを覚えていた。
 
彼が人妻から飲まされた錠剤は、一般にはMDMAとかエクスタシー(※)、またはエックスと呼ばれる、覚醒剤(メタンフェタミン)と非常に酷似した成分と効果を持った薬物で、アメリカでは何人もの死者を出している危険なドラッグであり、彼女の夫が海外へ出張したときに手に入れた品物であることを、二日ほど後になって、彼女からの電話で聞かされた。
 
その人妻は、体調が戻るとすぐさま出張先の夫に電話を架け、彼女がうっかり胃腸薬と間違って服用してしまい、死ぬほどに体調がおかしくなって苦しんでいたと、江口と二人で肉欲に溺れて痴態の限りを尽くしてきたホテルの一室での、呆れるほどの長時間に渡って愛欲に塗れていたことなどは、ほんの露ほどにも匂わせず、完全なまでに素知らぬふりを決めて、その夫だけを散々悪者に仕立て上げて攻め、ようやくに白状させたとのこと。
 
これで彼女は、女性特有の狡さとしたたかさを自在なまでに操ることで、今回の一件を、夫の弱みに転化させて掌握し、家庭内における確固たる地位を更に向上させたのだろう。
 
その電話を受けた時の江口は、三日間の疲れによる虚脱感と激しい筋肉痛を堪えながら、彼女の話を聞いていたそうだ。正常に動けるだけの体力へと戻す為には、あと一日か二日程度の休養が必要だったとのこと。
 
江口も、その人妻も初めての服用であって、免疫性が全く無かったせいか、平生の二人からは想像も出来ないような痴態を繰り広げてしまったようであった。
 
一週間の出来事を、私に話し終えた彼自身の口から、あんな危険な薬は、二度と呑まされたくないという気持ちと、いつの日か、もう一度、別の女性と試してみたいと思う気持ちが交錯していて、何とか、あの薬壜を手に入れられないだろうかとも思っていると、冗談ぽく語った。
 
最後まで江口の話を聴いた私は、いつもは寡黙で、常に周りに警戒心を持って慎重な会話をする彼が、単なるホスト仲間でしかない私に対し、ここまで無防備に自分を曝け出すなんて、やっぱり覚醒剤、また同系列の薬物群は、本当に怖ろしい物だと、強く確信させられていた。

エクスタシー(前)
  〃   (後)



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