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芸能人と一般人の婚約発表や結婚の報道は、今も昔もテレビのワイドショーには欠かせない話題であり、それも大物芸能人や、その時代の人気歌手ともなれば、高視聴率のニュース番組でも取り扱われることがある。

ヌーベルアムールでNo.1だった美形ホストの恋野が、一千万円の支度金と共に、棲み慣れた新宿歌舞伎町から、赤坂で新規開店をした高級ホストクラブの看板ホストとして移籍をしたことは『B型』で紹介したが、今回は、赤坂時代の彼を綴ってみることにする。

実際、開店の当日には、彼の等身大の写真が、芸能人でもあるまいに、人型の看板となって玄関前に飾られているのを見た時は、流石に図太い性格の恋野でも、唖然とさせられていたそうだ。

高額な支度金を受け取ったことも大きなプレッシャーとなり、赤坂でもNo.1を張り続ける為、太い客を増やすことに神経を研ぎ澄ますことにも慣れた頃、歌舞伎町の頃から恋野を指名していた若いホステスが、自分の先輩だと言って、当時人気が出始めていた女性演歌歌手を紹介した。
 
一見すると、おとなしそうに思える表情をしていたが、その歌手の瞳の奥には、一般の女性では決して持ち得ないであろう、鋭いまでの眼光を秘めていた。その夜の彼女は、若いホステスが恋野と親しげにする姿を、終始、優しげな表情で眺めていたそうだ。

ところがである、それから僅か数日後に、若いホステスを従えるように来店をした演歌歌手は、彼女に向かって別のホストを指名するようにと促し、その時点から、自分が恋野を指名すると宣言をしたのだ。
 
厳しい芸能界を生き抜くために鍛えられた闘争本能からか、それとも、持って生まれた支配的性格なのかは判らぬが、若いホステスも、そして恋野も、気が付けば彼女の言いなりになっていた。
 
ホストクラブである以上、指名替え自体は、実際によくある話であるが、こんな事例は、それまでに聞いたことが無いばかりか、それ以降にも聞かされたことが無い。

その日から、毎日のように通い続けた彼女は、若いホステスから恋野を奪い取ったという意識があるのか、彼がNo.1の座から落ちないようにと、毎月の売上に貢献し続けた。
 
10万円以上もする高額のブランデーを何本も開け、帰り際には、残ったブランデーをアイスペールに空けて、その上から、灰皿に残っている煙草の吸殻を投げ捨てて帰ることが、彼女の習慣のように成っていた。
 
嫉妬深さも尋常では無く、他の指名席から戻って来た恋野の頬面を、ハンドバッグの中から掴み出した、帯付きの札束で殴り付けるなり、「どうせお前なんか、これだけが目当てなんだろう!」、と叫びながら威嚇して、涙ぐんでいたこともあった。

数か月の時を経た頃、何曲かの中ヒットを重ね、人気も次第と上昇を続けた彼女の、出世曲となったレコードは、大きく売上を伸ばして、ついには紅白への初出場が決まった。

元々から店内では知名度が高く、彼女に気が付いた他の席のお客が、サインや握手を求めに来ることもあり、そんな時などは、彼女特有の猫なで声を出して、快くサインに応じていた。

しかし、この紅白と言う名の大舞台への出場は、それまで演歌に全く興味の無い連中にも、彼女の顔と名前を浸透させてしまった。
 
これまでの彼女は、スケジュールが空いてさえいれば、いつでも恋野と連れだって、様々な場所へと足を運んでいた。たとえ人目の多い昼日中でも、渋谷や新宿などの繁華街で食事をしたり、買い物を楽しんだり、映画を観賞すると言った、ごく一般的な恋人たちと全く同じように過ごしていた。

以前なら、彼女の歌がヒットを続けて知名度が高くなっても、演歌歌手であるがゆえに、メディアへの露出も少なく、自由にマクドナルドでハンバーガーにかじり付くこともできた。

ところが、紅白への出場が決まったことによって、彼女の周囲の環境は一変させられてしまった。もちろん、紅白出場の知らせは、彼女に絶大な悦びを与え、恋野や取巻きたちとネオレディースで祝杯をあげたことは言うまでもない。

心の底から気分を良くしたのだろうか、急に、満席状態にお客が入っているネオレディースのステージで歌いたいと言い出したかと思うと、すぐさまヘルプのホストに指示をして、バンドのヴォーカルに持ち歌である三曲を歌う旨を伝えた。

しかしながら、カメラの撮影を怖れたのだろうか、店の照明を全て落として欲しいことも内勤に伝えた。この時代、まだ携帯電話にカメラなどは付いていなかったものの、彼女の用心深さがそれをさせたのだろう。

だったら初めから歌わなければよいものを、その甚だしく高揚する感情を、どうしても抑え切ることを出来ないところが、彼女の烈しい気性を物語っていた。そして、その突飛な行動を鼻高々に悦ぶのが、新宿、赤坂を又にかけたNo.1ホスト、恋野の特異な性格でもあった。
 
ホスト社長の霧野が斜に構えたマイクから、紅白初出場が決まった歌手として、彼女の名前を声も高らかに告げると、満席の店内からは割れんばかりの拍手が起こった。

全ての照明が落ちるのを確認すると同時にステージへと向かい、おもむろに一曲目を歌い始めた彼女の、独特の声質の中に、いつもとはどこか違うような、何か湿り気のようなものが醸し出されていたのは、辛酸に辛酸を重ねて、ついに栄光へと辿りついた、つらい過去を振り返っていたからかも知れない。



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