pentagram
この当時、演歌歌手と裏社会は密接なつながりを持つことがあり、彼女は、その筋の人間に依頼をすることで、ゴシップ誌に強い圧力をかけた。
 
まったくの世間知らずと言うか、彼への激しい恋情が、彼女の平衡感覚を失わせてしまったのだろうか、この常軌を逸した彼女の行動は、ゴシップ誌側に、売れないホストからはした金で買った、いささかも信憑性のなかった芸能情報が、間違いのない真実であるという、強い確信を持たせてしまった。
 
こうした時のゴシップ誌は実にしぶとく、このような脅しに引きさがるどころか、次に彼女の記事が取り上げられた時には、その誌面は何倍にも膨れ上がり、写真までもが大きく掲載されていた。
 
流石に、これ以上のことを起こせば、彼女自身の歌手生命がおびやかされることを感じ取ったのか、それとも、所属事務所、もしくは恩師に諭されたのだろうか、それ以降は、記事内容を完全に無視することで、世間の目を欺く戦術に徹した。
 
ところがである。こうした彼女の行動が切っ掛けとなって、藪から蛇が飛び出してきた。ある種のヤクザは、新聞や週刊誌の記事内容に、金の臭いを嗅ぎつけると、執拗なまでに執着することがある。
 
この時も、そんなヤクザの一人が、彼女ならぬ、彼の方に威しを掛けて来た。その男は、連日のようにネオレディースへ電話を架け、恋野を電話口に呼び出し、様々な容の恐怖の心理学を駆使して脅迫観念を植え付けては、更にそれを揺さ振り続けた。
 
恋野も、初めの内は強い口調で、その男の言葉に屈しない頑とした態度をもって、決して怯むことなど無いようにも見えたが、やはり相当に神経が応えて来たのだろうか、日に日に笑顔を見せることも少なくなっていった。
 
そんな彼の不安感を癒そうとしたのか、それとも、彼女自身の気分転換の意味もあったのだろうか、一週間ほどスケジュールが空いたのを機に彼女は、すこぶるギャンブル好きな恋野と一緒に、カジノのメッカ、ラスベガスで豪遊することで、何とか、二人の憂さを晴らそうとした。
 
恋野は、日本での嫌悪すべき出来事を、全て忘れ去ろうとするためなのか、殆んどの時間をカジノのゲームに費やした。当時はまだ、日本で浸透していなかったバカラというゲームには、とことん集中することが出来たそうだ。
 
ルールとしては実に単純で、彼に言わせるとその原理は、日本で言うところの丁半博打とまったく同じなのである。ゲームのたびに勘を働かせて、プレーヤーに張るか、バンカーに張るかを選択するだけの、全くの素人でも、簡単に始めることが出来るが、ある意味では、真に怖ろしいゲームであった。
 
一度、ツキだすと、元金が何倍にも膨れ上がっていく倍々ゲームであり、逆にツキに見放されると、一気に元金が底をついてしまうという、浮き沈みの激しいゲームである。
 
元々、人との勝負事が異常な位に好きな恋野は、低レートの台ではもの足らず、次々とレートの高い台に移動して行った。最終的には、日本円にして一千万円以上の勝利を収めたというのだから、やはり彼の博才はなかなかのものであった。
 
しかしながら、同行している彼女を殆んど顧みずに、ゲームにばかり熱くなっていた為か、二人の間には不穏な空気が流れるようになっていた。後で恋野から聞いた話では、ラスベガスにいる間、ただの一度も肌の触れ合いが無かったそうだ。そして、日本に帰る頃には、実に険悪な状態になっていた。
 
また、恋野がバカラの合間に娼婦を買ったことがばれて、それが原因で、揉めたのではないかとの噂も流れた。どうやら彼は、カジノでの勝利と引き換えに、彼女との結婚をご破算にしてしまったようだ。
 
日本に帰国すると間もなく恋野は、まるで彼女から逃げだすかのように、赤坂のネオレディースを辞めて、歌舞伎町のヌーベルアムールに舞い戻った。実際、ヤクザの脅しも執拗なまでに続いており、彼ほどのホストが、支度金も無しでの転籍は、その部分が、最も比重を占めていたのかも知れない。
 
更に恋野は、携帯の電話番号も変えてしまい、彼女は連絡を取ることすら出来なくなってしまった。それから、何年かの時が流れた。

各メディアが一斉に、幾年にもわたり紅白への連続出場を果たしている実力派歌手として、彼女の結婚報道を大きく取り扱っていた。相手の男性は実業家の肩書を持ってはいたが、どこか頼りなげで、若干、夜の世界の匂いが漂っていた。そして、顔立ちをよく見ると、恋野と見紛うばかりの好男子であった。
 
旧知のホストの間では、彼女は恋野への思いをなかなか断ち切ることができず、彼の面影を追い求める内に出逢った、偶然よく似た男を、彼のレプリカとして身近に置く為に、結婚にまで至ってしまったのではないかと言ったような、実に信ぴょう性の乏しい噂が、もっともらしく流れていた。
 
ところが、その噂を立証するかの如く、わずか数年後に、彼女の離婚報道が流れた。

実際、彼女が生きてきた軌跡を垣間見ると、真実、信じ難いものではあるが、もしかしたら、飽くことなく享受して、数々の浮名も流してきた幾多の男たちとは異なり、恋野に対する烈しい想いだけは、どこまでも純粋で、あくまでも一途な真心を持った、情念の発露であったのかも知れない。



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